竜馬がゆく 司馬遼太郎

著名なこの作品、大学生くらいのときに若い頃に読んだ方が良い!と聴き、
気になっていたのですが、いかんせん分量が多いので中々手を付けられず、
今回やっと読了できました。
たまたま図書館で最初文庫の1巻を読んで、次にハードカバーの2巻を見て、
あれ、なんか話がとんでる??と思ったら、文庫とハードカバーで
巻のまとめ方が違うんですね!慌てて1巻もハードカバーで読みなおしました。
全体の感想としては、確かに、これはもっと早く読んでいたら、人生観というか、
自分の生き方が変わったかも!
でも、今の年齢で読んだから理解できたのかなぁという部分もありました。
アラフォーの私が読んでも、これからの人生を考えさせられるというか、
自分の生き方に重要な指針をもらえた、と感じた内容だったので、
年齢は関係ないかなと。
短い期間ですが高知にすんでいたことがあるので、桂浜の銅像もみたことがあったし、
竜馬さんにはなんとなく親近感を感じていましたが、こんなに偉い人だったとは知りませんでした。
生きている時代も、性別も違う人ですが、自分がこの世に生まれた意味みたいなものを探して、そしてやり遂げた人というところ、様々な思想が生まれ、身分や生まれた土地、立場などによって、数多くの派閥(思惑を持ったグループ?)があった時代に、そのどれかに迎合するのではなくて、協力はしつつも、自分の本当に納得できる道を貫いたというところをとても尊敬し、私もそういう風にいきたいなと思いました。
かなり長いので、巻ごとに感想を書きます。
 
1巻 立志篇
竜馬の少年時代から、江戸に剣術修行に出て、一度土佐に帰ってくるまでのお話。
乙女姉さんの話など、なんとなく知っているエピソードもありましたが、
竜馬さんが剣の達人だったとは知らなかった。
政治家っぽいイメージを持ってしまっていたので、剣術というのは意外でした。
他の本で読むと、土佐弁が自分の知ってるのと違くて??と思うことが多かったのですが、この本は懐かしいなぁと思う表現が多かった。私もネイティブじゃないので、
偉そうなことは言えませんし、時代も違うのですが…。
竜馬さんは飄々としたキャラクターで現代人にも人気があるのがわかる気がしました。
この巻で重要なポイントと感じたのは、竜馬さんが蘭学を習った先生のテキストが、
法律学だったということ。これはたまたまこの先生の手に入った書物がそれだったというだけで、生徒が学んでいたのは主に言語であって(大体医学書をテキストにしている先生が多かったと)、内容ではなかったのだと思うのですが、これがあとあと竜馬さんの思想を形成する重要なポイントだったのでは!と私は思いました。
この本の前に子供向けの伝記で、竜馬と岩崎弥太郎の本を別々に読んでいて、
この二人がほぼ同世代だったことを知って詳細を知りたかったのですが、
この巻ですでに岩崎弥太郎も登場していて、先が気になりました。
 
2巻 風雲篇
脱藩、そして勝海舟との出会い、とやっと竜馬の人生が動き出した感じ。
土佐、長州、薩摩と竜馬をとりまく情勢も騒がしくなり、
それぞれが信じる義を通すべく活動しているのですが、
哀しいのは国をよくしたい、外国の侵略から守りたい、という心はみな同じなのに、
自分の藩や幕府、あるいは朝廷という枠組みを出られない人たちが、
浅慮から暗殺などの安直な手段に訴えたり、無益な衝突で命を落としてしまうこと。
守り人シリーズを読んでいた時と同様、囚われた心が誤った判断、
ゆがんだ正義による悪行を生んでしまうと感じました。 
竜馬さん1巻に引き続きもてまくりですが、この巻で重要なポイントはおりょうさんの登場です。
 
3巻 狂瀾篇
ついに長州がやっちまいました。
蛤御門の変はもちろん知っていましたが、こんなに凄惨な「戦争」というイメージはなかった。
竜馬の親友半平太の悲劇もあり、明るい展望もあった前巻と比べ、悲愴の一言に尽きます。
翻意を繰り返す天皇の態度も、山内容堂の態度も酷い!と思いましたが、
一方で過激派はやはりうまくいかないものだなとも感じました。
この当時の長州の観念的勤皇論がのちの大東亜戦争を引き起こしたという著者の論に衝撃を受け、関ケ原での因縁が幕末までひっぱられていたことに驚いたのと同様、
歴史の怖さというか、種はずっと前にまかれていたと感じました。
4巻 怒涛篇
薩長同盟に至るまで、待ちの時間が多くてやきもきしますが、
こんなに微妙な調整の積み重ねでやっと成立したものなんだなと。
理屈では協力が合理的とわかっていても、積年の恨みや、
相手への不信感を払拭する心のつながりができないと人は手を結べないということや、
その糸口を見つけるのはとても難しく、取り持つことが出来る人はすごい才能の持ち主、ということを感じ、竜馬さんが剣術修行で人と人との呼吸、間合いみたいなものを会得する一方で、西洋の合理主義を学ぶ機会に恵まれたことで、理屈一辺倒でもなく、
情にも流されすぎないバランス感覚を身に着けていたのかなと。
もちろん、もともとの才能や性質によるところも大きいと思いますが…。
薩長同盟後は徐々に事態が好転していく一方で、初めて得た船が大切な仲間と共に沈没してしまったり、饅頭屋がつまらないことで落命してしまったりと、とても悲しいこともありました。
おりょうさんともやっと結婚に至ったものの、これが二人にとってよいことだったのかどうか、不安な感じもあり、先が気になります。
特に印象的だったシーンは、煮え切らない西郷隆盛に竜馬さんが長州がかわいそうじゃないか!と一喝する場面と、竜馬が坂を下りてきて、船がないことに気づくシーン(喜びから一転、という情景がとても劇的に感じました)、そして私的感動No.1は長州の百姓兵が幕府の武士の部隊を破り、竜馬が革命を想うシーンです。
 
5巻 回天篇
この巻は大政奉還成る、と、その直後に暗殺による竜馬の最期、ということで、劇的な結末を迎えていますが、私的に一番重要だと思ったポイントは、土佐藩ともう一度手をくむ、ということだったのかなと。
世の中が大きく変化している時世を読めず、未だ古い身分制度にとらわれている土佐藩を見限って脱藩し、長州、薩摩の調停に奔走していた竜馬ですが、ここで土佐藩側からの申し出でもう一度自分の故郷との協調を検討するにあたって、自分の中の昏い感情に向き合うことになったのかなと。
身分や過去の因縁など、他の人がこだわってしまうようなことに執着せず、
あまり人の好き嫌いをしない、だからこそみんなをまとめてこれた竜馬さんですが、
郷士としての上士への恨み、劣等感みたいなものは、ずっと根底にあったのかなと。
それを、後藤象二郎と会見する前に、猛反発する海援隊の同藩仲間を見て、
恨みに我を忘れてまるで化生のようだと感じるシーン、そこで、
彼は自分の中にもそういう昏い感情(囚われた心)があること、
そしてそれを捨てなければいけいないことに気づいたのかなぁと感じました。
結果、微妙なバランスを土佐藩薩長側に引き入れることで、成立させ、
幕府と薩長どっちが勝つ(それはつまり仏英どちらかを優位にさせてしまうこと)のではなく、大政奉還という形に決着できたのかなと。
思うに、もし、竜馬が上士の家に生まれていたら、ここまでの苦労をして無血革命を行おうと思わなかったかもしれないし、たんなる現政権の転覆ではなく、自由平等による新しい世界を作ろうというビジョンを持てたのも、自分の虐げられる側としての経験があったから、抑圧による支配の限界を身をもって感じていたのかなと。
山内容堂日和見的態度にも、本当に腹が立ちますが、この人のこの煮え切らない姿勢がなかったら、薩長土対幕府という単なる戦争になってしまい、大政奉還という発想は生まれなかったのかなとも思い、いろんなことが複雑に作用して、奇跡的にこの結果が生まれたこと、竜馬はまさにそれを起すために生まれて死んだように感じました。
このお話の範囲外で、のちに戊辰戦争が起きてしまうことは誰もが知っていますが、
それでも、この段階で正面衝突してしまうことよりは被害を小さくできたのかな、と感じました。
一連の竜馬さんの苦労を見るに、結局戊辰戦争を引き起こしてしまう人々には、
なんでなんで、という気持ちは否めないですけど…。
あとがきの、日露戦争の時の皇后陛下の夢、の話は初めて知り、事実なのか、
政治的な思惑があっての事なのかよくわかりませんが、結果的に忘れ去られようとしていた竜馬さんの功績が世に遺ったことがよかったのでは、と思いました。

<竜馬さんの女性関係に私が感じたこと>
読書メーターの他の人の感想では、さなこさんがかわいそう、とか、
おりょうさんはあんまりすきじゃない、ということを書かれている方がいたので、
私がどう思ったか考えてみると…。
さな子さんについては、あまり自分は共感できなかったというか、
竜馬さんみたいな人をある特定の家に縛るのはそれこそかわいそうじゃないかと…。
外で何をしていたかあまり知らなかったから、
剣術No.1の彼は自分の婿になってそれをやれるのが良いと思ったのかもしれませんが。
切腹覚悟で迫る、というのも、そういうとかっこいいみたいだけど、
なんか結婚してくれなきゃ死ぬみたいな言い分と感じ…現代人の感覚ではどうも不公平な気がしました。
おりょうさんは当時としてはかなりとんでるひとで、だから竜馬さんと付き合えたのかなぁと思ったけど、やっぱり家族が貧困でひどい目にあっていたりもして、暖かい家庭に憧れる部分もあったのかなと。(家をほしがるシーンでそう思った)
竜馬さんの死後、坂本家に引き取られたけど、乙女さんと折り合いが悪くて追い出された、というような記述が良くみかけられますが(龍馬の妻、という本にもそんな感じで書かれてたような)、私としては乙女さんもやっぱり当時としては規格外の女性だったみたいなので、夫も亡くしたおりょうさんを坂本家に縛ってしまうのもかわいそうと思ったのかなと。(竜馬さん長男でもないし…)だから、おりょうさん自身の談とされている、近所の挨拶に一緒に行ってくれたり、丁重に送り出してくれた、という方が真実みを感じました。
本編でもちょっとそういう記述がありましたが、wikiなどでもおりょうさんは、
同性だけでなく、竜馬の仲間たちにも評判が悪かったみたいですが、
現代だったらまた評価が違ったかもしれませんね。
 
すごく長くなってしまいましたが、歴史の勉強になるだけでなく、
人間関係や、仕事、いろんなことを考えさせられ、読んでよかったです。
司馬遼太郎さんの他の著名な作品(坂の上の雲とか)や、
岩崎弥太郎に関する書籍も読んでみたいなぁと思いました。