21 Lessons  ユヴァル・ノア・ハラリ

大分前から気になっていた本作を、やっと読むことが出来て、期待していた以上にすごーく面白かったのですが、私にとってはボリューム的にも内容的にも、かなり重かったので、感想としてまとめるのは難しそう…。頑張ってみます。

 

導入部で著者のユヴァル・ノア・ハラリさんが述べられているように、この本は氏のこれまでの著作がそれぞれ

サピエンス全史(2016) ⇒ 過去
ホモ・デウス(2018)  ⇒ 未来

を考察していたのに対し、本作は現在にフォーカスした作品で、

・現在、世界でどんなことが起きているのか
・それにどんな意味があるのか
・これからどんなことが起こり得るのか
・それに対して私たちが今できることは?

という内容だと思います。

私が特に印象的だった部分は…

・現在、自由主義グローバル化にブレーキがかかるようなことがいろいろ起きている。例えば、トランプ大統領の政策、イギリスのEU離脱。この原因は、ファシズム共産主義に資本主義や自由主義が勝ったけど、その後そっちへイケイケどんどんやった結果、なんかうまくいかない部分がある(格差は広がり、貧しい人は奴隷のように自由がない…とかその他いろいろ)。そのため、この流れを止めようとする動きが出てきたし、状況を分析してよりよい、新しい思想を見つけるかわりに、過去の統制された体制の復活に魅力を感じてしまう人たちもいるということ。

・バイオテクノロジーとIT(情報テクノロジー)の発展、融合は単に機械に仕事を取られる、とか、ビッグブラザーに行動を監視される、という以上のことを引き起こす。
例えば、音楽が人間に与える影響が分析できてしまったら、機械が完璧に「気持ちいい」音楽を人間に提供できてしまう。人間にしかできないとされていた創造的な仕事、アーティストすらもいらなくなってしまう?また、情動を脳の信号として解析できてしまったら、体制に「悪意」や「怒り」を持ってしまっただけで、しょっぴかれるかも。
 これらのことが怖いのは、フィクション作品の中でそういう場面(犯罪を起こしそうな人を事前に捕まえる未来)が描かれていたり、オススメ!機能やgoogleの検索結果に自分が選ぶものを左右されているのは、すでに起こっていることだということ。


・機械が勝手な感情をもって、人間に危害をくわえる心配(可能性0ではないが意識と知能の関係はまだ不明)よりも、何を正しいこととして、機械にプログラムするかが問題。例えば、自動運転車は、のっている人間の命と、目の前に飛び出してきた人間の命どちらを優先させるべきか?機械は、(少なくとも現時点では)感情がないので、プログラムしたとおりに必ず動く。軍隊を機械にした場合、恐怖や激情による作戦外の大量殺戮が起こらないのと同様、人に危害を加えることに感情や良心でブレーキが掛けられることも絶対にない。

・投票するときに候補者に確認することは
 ①もし、当選したら核戦争の危機を減らすためにどんな行動をとるか?
 ②気候変動の危機を減らすためにどんな行動をとるか?
 ③AIや生物工学のような破壊的技術を規制するためにどんな行動をとるか?
 ④2040年の世界をどう見ているか?

・テロリストに屈しないためには、「恐怖」によって彼らの能力を大きく見積もらないこと。それこそが彼らの望んでいること。ただし、テクノロジーを彼らが手に入れてしまった場合、その影響力は正しく判断しないといけない。

・殆どの人間は、21世紀初頭における自由主義秩序の庇護のもとで享受したほどの平和と繁栄は、かつて経験したことがない。史上初めて、感染症で亡くなる人の数が老衰で亡くなる人の数を下回り、飢饉で命を落とす人の数が肥満で命を落とす人の数を下回り、暴力(戦争やテロを含む)でこの世を去る人の数が事故でこの世を去る人の数を下回っている。(※あくまでコロナ前の状態ですが…)
⇒人間を一番殺しているのは、環境の脅威や、他人からの暴力ではなく、自身の過剰な欲望?

 

■「謙虚さ」が大切。
インドのアショーカ王「神々に寵愛されし者」「万人を慈愛の目で眺めるもの」
あらゆる宗教の出家者と在家者を尊び…

■すべてが互いにつながっている世界では、至上の道徳的義務は、知る義務。
私が投資している企業が私の知らないところで環境破壊などの悪いことをして収益を上げていたとしても、
私の責任は0ではない。
(これを果たさなかったことが昔の貴族社会が崩壊した原因の一つでもあるのでは。)

・自分は自分の脳の中に閉じ込められている。さらにそれをとりまく無数の人間社会の枠に閉じ込められている。

・教育でこれから大事になることは、情報を与えること(詰め込み教育)ではなく、
情報を理解したり、重要なものとそうでないものを見分け、そこから正しい知見、判断を持てる事。
4つのC
①critical thinking(批判的思考)
②communication(コミュニケーション)
③collaboration(協働)
④creativity(創造性)

 

■何かを残す
遺伝子や詩のような、何か実体のあるものをのこせないのなら、この世界をほんの少しだけでもよくできれば十分なのではないか?
あなたが誰かを助け、その人がいずれ誰か別の人を助け、それによって世界の全般的な向上に貢献し、思いやりの壮大な連鎖の、一つの小さな輪になることが出来る。

 

・もし人々になんらかの虚構を本当に信じさせたければ、その虚構の為に犠牲を払うようにそそのかすといい。たいていの人は自分がカモにされたとは信じたくないので、ある信念のために犠牲を払えば払うほど、信じる気持ちが強まる。

ファシズムという言葉は、「棒の束」を意味するラテン語fascisに由来する。
棒は一本だととても弱いが、何本も集めると折れなくなる。
個人はとるに足らないものの、共同体は結束している限り、とても強力である


知識的なことと、考えでへぇと思ったことを両方並べてしまったので、レベル感の差がありますが…。

かなり盛りだくさんの内容なので、何にフォーカスして感想を書いたら良いか悩んでしまいましたが、最後に訳者の柴田裕之さんが書かれているように、結局

私たちはどう生きるのか?

ということを問いかける書籍なのかなと。
それを判断するための材料を提供してくれているというか…。
そういう意味では、■にしたポイントが自分にとっては、指針になったかなと思いました。
あと、この方がイスラエル出身方で宗教をめぐる闘争についても、
当事者(該当地域に出身の方として)としての視点を持っているということも、
面白いポイントだと思うのですが、私としてはこの本で言われていることは、仏教系の書籍に書かれていることと、通じるところがあるように感じました。(瞑想などがでてくるせいもあるかも)

連想したものは、
・般若心経
・唯幻論
河合隼雄さんの物語論
・アミ小さな宇宙人(エンリケバリオス)⇒機械がすべてやってくれる世界、というのがこの本に出てくるイメージだった
・人が自分をだます理由(ケヴィン・シムラ―)⇒未読了ですが、認知や人間の情動についての部分
・第五の権力(エリック・シュミット)⇒こちらも未読了ですが、テクノロジーの明るい面について書かれている。


この方の別の書籍も読んでみます。あと、翻訳家の方についても思うところあったので、別の日にまとめたいと思います。