アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した ジェームズ・ブラッドワース

この本を知ったのはたしか読書メーターの方の読友さんが読んでいたからで、読んでみようと思ったのは1年くらいの期間Amazonの倉庫でピッカーのバイトをしていたからです。内容はイギリス人の著者が、アマゾンの他に介護業界やウーバーという日本ではまだ合法化されていない配車サービスなど、0時間契約という低賃金、無保証で働いている人々の職場に潜入してレポートするというもの。アマゾンのレビューや読書メーターの感想で、HIREDという原題に対して邦題がひどい(誇張してる?)、というものも結構あったのですが、私はAmazonの倉庫という単語がタイトルに入っていなかったら興味を持たなかったと思うので、この邦題にしてもらえてよかったです。

 

アマゾンに関しては、この本に書かれていたFCでは(イギリスでは、と考えて良いみたいですが)皆がイギリス人の著者を見て、貴方はイギリス人なのになぜこんな仕事をしているのか、特殊な事情があるのか、と尋ねてきた、というように、東欧からの移民の方が多いようでした。移民の問題についてはイギリスがEU離脱を言い出した理由の一つだという認識がありましたが、この書籍を読んで具体的にどういうことが起こっているのか少し理解が深まりました。

また、大声で叱責されたり、給料が全額支払われなかったりということが頻繁にあるようで、これは自分の働いていた日本のFCでは(というより自分が所属していた派遣会社では、としか言えませんが)あり得ないことだなぁと。

逆に、これはAmazonだけでなく、他に書かれていた介護業界などでもそうですが、順守しようとするとノルマが達せられなくなるルールや、基本的に従業員は盗んだりさぼったりするという前提のもとに作られている監視システムなど、たとえ日本企業の正社員であっても経験したことがない人はいないんじゃないかなぁと思う部分もありました。

私がAmazonでアルバイトをした感想としては、危機管理や大勢が働いている現場をコントロールするシステムとしては、勉強になる部分が多かったなぁということ、短時間ではいいけど、一日やる仕事としては結構体力的にきつかったなということです。ノルマがもうちょっと緩かったら続けられたかなぁと思いますが、自分は他の仕事と兼業していたのもあってちょっときついかなと思って1年くらいでやめることにしました。世の中でどんなものが売れているのかということや、こんな商品があるんだ!ということがわかっていい経験だったと思います。でも、これで生活費を稼ぐとなるとかなり大変で、当時もらっていた時給でフルタイムで働いてもとても生活できるような金額ではなかったと思うし、現実的にはフルタイムで働くということ自体がほとんどの人にとって体力的に厳しいのではという感じ…。逆に言えば、イギリスの状況よりも雇ってもらうのは簡単だし、やろうと思えばいくらでも仕事はもらえる印象(ただし、パートの主婦の方が多い昼間の時間帯は人気でなるべく8時間とかの一日単位で入るようには言われたかな)でした。

 

この本では、現代の低賃金の仕事との比較対象として、かつての炭鉱の仕事というのが挙げられていて、私は西表島の炭鉱の話などから炭鉱の仕事はかなりきつい仕事、という印象でしたが、それと比べても現代の低賃金の仕事が尊厳のない仕事、とされているのが印象的でした。わたしはAmazonのことしかわからないのですが、確かに倉庫内にずっと閉じ込められている状況や、昼休みにロッカールームに行くにも身体検査されるような環境はあまりいい状態とは言えず、長期間続けると精神的に参りそう、という感じはしました(そこまでしていても盗難の問題は常に発生していて、これが必要だというのもまた事実だとは思うのですが)。しかし、この本にも書かれているように多くの仕事がそういう方向性にいきつつある、という感じはして、一つのことにじっくり取り組むというよりも、常にせかされたり、見張られて仕事をしているような状況はいろんな業種であるのかなと思いました。単純作業のような仕事はAIにとられる、という話がよくありますが、むしろこういう仕事はどんどん機械にやってもらった方が良いのかなと思いました(介護はその中にいれられないと思いますが)。

 

ウーバーについては全く知らなかったので、この本を通じて知ることが出来てよかったなと思いました。この本だけを読むと、自分がウーバーに登録して働きたいとは思えないですが、別の書籍ではちょっと良い方向性の興味を持ちました(この本については後日感想を書きます)。

 

全体的な感想としては、自分たちが低価格で便利に使っているサービスの裏で搾取されている人々がいるということ、低賃金なのにギャンブルやお酒などに浪費してしまう人々に対して自己責任と断じることのできない背景があるということ、それを知ったうえでどういう行動を自分がするべきなのか考えさせられました。アマゾンは私のように郊外に住んでいる(都会に買い物に行くとコストがかかる)人間にとってはとても便利だし、プライムビデオなども利用しているので、悩ましいところですが、金子由紀子さんの著作にあったように今の世界はお金が投票用紙という側面があると思うので、どこ(どんな企業や店)から物を買うかということはよく考えてきめたいと思いました。

自分としてはこのような問題の打開のきっかけというのは、お金で買えない価値のあるものを考える事、生活を経済の世界だけに依存させないことかなと思っています。