職業としての小説家 村上春樹

昔好きじゃなかった(色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 村上春樹 ② - おまゆの読書日記)という割には、最近村上春樹さんの書籍ばかり読んでいます。まさに悪いようにはされない、という信頼のもと、とりあえず、読んだことないのを見かけたら読んでしまう感じ…。今回もとても面白かったし、自分が知りたかったようなことが書かれているなぁと思いました。

 

知りたかったようなこと、とは、以前、村上春樹さんの「夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです」を読んで、すごく感銘を受け、私も自分のセラピーの為に物語を書いてみたいなぁと思ったのですが、やはり実際やってみるとうまくできない部分があって、うーん、やっぱり凡人は才能がある方のようにはいかないのかな、と思ったまま放置してしまっていたので、それにまたとり組んでみよう、具体的にこういう風にしてみよう、と思えるようなやり方を思いつけたことです。

 

この本に何が書いてあったかというと、村上春樹さんが小説家という仕事をするようになったきっかけから、実際に仕事をしながらどんなことが起きたか、また日々どういう風に取り組んでいるか、どんな課題を設定し、どうやってクリアして来たか、というようなことが書かれていました。こうするべきだ、というような説教臭い形ではなく、村上春樹さんの場合はこうやっています、普遍的に役に立つかどうかは読んだ人が判断してください、というスタンスですが、私としては文筆業を目指す方には本当にここまでオープンにしてくださっていいんかな、というくらい具体的に作業の仕方や作業量、ずっと書き続けるための持続力維持の方法などが書かれているし、文章を書くという以外の創作活動をされている方にも通じる方法なのでは、と思いました。

 

特に自分にとって興味があって、参考になった個所は、オリジナリティについて書かれた章で、すぐにその人の物とわかるだけでなく、自己改善されていくし、年月の検証に耐えて人の価値判断の基準になる、ものが本当にオリジナルなものというところはすごく納得できました。また、プロとしてやっていくためには自分が作ったものが誰か(ある一定数以上の人たち)にとって価値のあるものであることが必要ですが、まずは自分が納得できるものであること、批判を受けたりして傷ついたり、迷ったりしたとき、楽しいからやっているということに立ち戻れるということに取り組むことが創作する上で大切ということを感じました。これは、あらゆる人が言っていることで目新しいわけではないお話だと思いますが、とても大切なことだなぁと改めて。

 

あと、村上春樹さんのことを改めてすごいなぁと思った点としては、自分がブレないということです。この本の中でも書かれているように、もちろん、ご本人の中では失敗したり(例えば結果的に他人に振り回されてしまったり)、試行錯誤したり(やってみたけどダメだった)というプロセスがあったと思いますが、外から見ると、自分にとって何が大切なことで、何が余計なことなのか、いつも的確に判断されて、他人の批判もしくは賞賛、あるいは時代や社会情勢などの環境の変化に左右されていないということです。小説を書くこと自体はあくまで個人的な営みがまずあって、そこではピュアな情熱を維持しながら、例えば執筆する場所を変えてみたり、アメリカに自分を売り込みに行く、というような書くことに集中できる環境とか基礎作りの部分では冷静な視点というのを持たれて、実践されているのかなと。一言でいうと心のきれいさというか、クリアさ?みたいなものをすごく感じました。「人心を乱す」ようなものに巻き込まれないというか…。

 

具体的な創作の部分でも、自分の中の暗闇を探るというような行為は、かなり危ないところがあるし、安易にやらないほうがいいことかもしれませんが、本当に大切なこと、価値あることはそこに沈んでいるのを取ってくる(見てくる)しかないので、それを実現するために、体を鍛えたり、ルーティーンの生活様式で安全性の確保というか、現実とのつながりが切れない様にうまくコントロールされているのかなと思いました。一日10枚書く、とか1時間運動する、というようなことは、誰にでもやる気さえあればできることで(とはいえ本当に実行できる人はほとんどいないことでもあると思いますが)、成功している創作者の方が天才性とか、凡人にはわけのわからないことではなく、こういうことを提案されている(情報提供されている)というのは、すごく励まされることなんじゃないでしょうか。また、ある意味では「単に怠けているだけ」、を「才能のなさ」に言い訳できなくなるというか…。

 

上に書いたことを読み直してみると、小説家になりたい人や、文章を書きたい人には参考になります、という感じになってしまいましたが、それだけではなくて、自分が本当にやりたいことや、こう生きたい、というのを実現するためにすごくためになるアイディアが詰まった書籍という感じがしました。もっとたくさん思ったことがあって、いまここに書いたたことは最初に感想に書こうと思ったことのほんの一部になってしまったんですが、長くなったのでとりあえずいったん終わります。